3歳までに覚えた咀嚼とのみ込み方は、その後一生体で覚えています。成人になっても高齢者になっても、そして認知症になったとしてもその食べ方で食べることになります。つまり、3歳までの食べ方が一生の食べ方を決定づけられるといってもよいでしょう。もしも不適切な食べ方を身に付けてしまった場合、あとでそれを改善するのは容易なことではありません。

食べ方は、咀嚼するということのみならず、歯並び、呼吸、姿勢、集中力にまで関わります。見た目にも健康にも大いにかかわる問題です。その基礎を作るのが3歳までの食べ方習慣です。食べ方習慣とは「どのように食べさせるか」につきるのです。

歯科医師の立場からすれば、多くの育児書に書かれている月齢比較による離乳期区分に大きく疑問を感じます。

育児書には、ゴックン期・初期(5~6ヶ月ごろ)、モグモグ期・中期(7~8か月ごろ)、カミカミ期・後期(9~11か月ごろ)、完了期(11~15か月ごろ)と区分されています。月齢による分類に、保護者は「この子は成長がはやい」「この子は他の子より遅れている」などと言って一喜一憂されます。

この時、一番やってはいけないこと。それは、“口の中にスプーンで放るように食べ物を食べさせること”なのです。この食べさせ方を日常的にしてしまうと、口および舌の機能が発達しないまま成長してしまいます。それだけではなく、お子さんの食への関心を失ってしまうことにもつながります。最近は“口笛が吹けない”“ろうそくが口で消せない”“風船を口でふくらませない”そんな子供が増えています。半数以上の子供が歯並びや口の機能に問題があります。この大きな原因の一つが3歳までにしてしまう“口の中にスプーンで放るように食べ物を食べさせること”なのです。

“口の中にスプーンで放るように食べ物を食べさせること”をしてしまうと、噛む前の“捕食”というプロセスを飛ばしてしまうことになります。“捕食”とは生物がエサとなる対象の動物を捕えて食べることです。“捕食”ができないと、生物は生きていけません。人間だけが、“口の中にスプーンで放るように食べ物を食べさせること”によって捕食せずとも生きていけてしまうのです。“捕食”をすることで、上唇、下唇、舌、口腔周囲筋、首の周りの筋肉などが発達します。これらはすべて、咀嚼、嚥下、呼吸、姿勢、歯並びなどに影響します。先述しましたように、3歳までの食べ方の習慣が、高齢になってでも影響しています。今3歳の子供もいつかは高齢になります。しかもその頃には今よりももっともっと超高齢化社会が進んでいます。高齢になると、咀嚼、嚥下、呼吸の問題は生死にかかわる大きな問題となります。これからの長寿社会を快適に生活を営むためには、子供の頃から口に対する意識づけが非常に大切です。(0歳から“噛む”で健康寿命 増田純一著 グレーブ株式会社 より)

次号より、どのようなお口に対する意識づけが有効かお伝えしていきます。