前号で、月齢による離乳期区分が、“口の中にスプーンで放るように食べ物を食べさせること”(時期によっては一番してはいけない食べさせ方)を誘発してしまう可能性があるということをお伝えしました。歯科医師の立場からは、乳歯の生え方で離乳期区分を考えた方が良いと考えます。

乳歯の生え方により、無歯期・前歯期・奥歯期・完成期と4つの時期に分けます。それぞれの時期に見合った食べさせ方がとても大切です。食べ方は自然の流れの中で、本来あるべき食べ方で、皆が食べていると考えがちですが、実はこれは間違いです。各人が無歯期から完成期にかけて保育者により学習させられ、獲得した食べ方で食べています。そのため、それが不自然であれば、不自然のまま生涯続くことになります。

 

無歯期の食べ方

無歯期とは、まだ乳歯が生える前の時期及び下の前歯だけ生えている時期です。この時期は授乳により、正しい口唇。舌の使い方を覚える時期です。口唇、舌の発育のためにも、できるだけ直母することが望ましいです。また、この時期は赤ちゃんがハイハイを積極的に行うことが大切です。ハイハイをすることで、首の周りの筋肉、肩の周りの筋肉がつきます。これらの筋肉は咀嚼にとても重要な働きをします。「早く歩いてほしい」とは親なら誰でも思うことではありますが、ここはハイハイがとても重要な時期だということを理解してください。食べさせ方ですが、ポイントはスプーンの位置です。上唇を少し伸ばして捕る位置が理想です。自ら上唇を伸ばして、捕食しにいくという食べ方が、口の周りの筋肉、舌の筋肉のトレーニングになります。大切なことなので繰り返しますが、“口の中にスプーンで放るように食べ物を食べさせること”は、食べることに受け身になり、この時期に必要な筋肉の発育につながりません。

「噛む」という行為は、口の中から始まると考えがちですが、口唇から始まります。そのために、この時期の食事の与え方が将来に大きく関係してきます。この時期は舌は前後にか動きませんので、そのまま飲みこめる流動性のものから始め、だんだん舌でつぶせる硬さのものに進んでいきます。「離乳食ははやく卒業してほしい」という親の気持ちもわかりますが、あせらず舌の動き具合を確認しながら、子供の口の状態に合った食材を選んでください。

「はやく歩くようになってほしい」「はやく普通の食事を食べるようになってほしい」という親の気持ち。月齢による離乳期区分によりわが子が少しでも遅れていたら、心配される気持ちもよくわかります。しかし、月齢ではなく、歯の生え方で成長を見守るという視点をもち、その時期にしっかりと身に着けるべき能力を保護者が意識することで、その子の一生に関わってくる食べ方が正しく学習されていきます。