最近、一般の雑誌やテレビ等で『THC』という言葉を耳にするようになりました。『THC』とは、安静時に上下の歯を接触させる習慣のことです。いわゆる噛みしめや歯ぎしりとは違い、無意識に絶えず上下の歯を接触させるという習慣です。歯を接触させるだけで何か問題があるかと思われるかもしれませんが、歯を接触させるだけで、口を閉じる筋肉(閉口筋)はいつも使われています。これが長時間化すると、筋肉の疲労感や顎関節への負担も増え、さまざまな症状を引き起こす要因になります。

 

さて、みなさんは今、このコラムを読んでいる時の上の歯と下の歯はどうなっていますか?上の歯と下の歯がどこかで触れ合っているとしたら、それがTHCです。本来、人は安静にしているとき、口唇を閉じていても上の歯と下の歯が1~3mm程度離れているのが正常です。その状態が口を開けるときに使う筋肉(開口筋)、口を閉じるときに使う筋肉(閉口筋)がともにリラックスしている状態です。それが、上の歯と下の歯が接していると、リラックスできなくなってしまいます。

 

それでは、上の歯と下の歯が1日の中でどれくらい接触しているのが正常だと思いますか?この答えを言うと驚かれる方が多いのですが、1日約17.5分というデータがあります。食事の時、呑みこむとき、会話の時すべてを合わせても17.5分が正常なのです。しかし、TCHの方の場合、20時間以上も上の歯と下の歯が接している方もいらっしゃいます。そして、そのほとんどの方がそのことが異常であると自覚がありません。また、歯ぎしりやくいしばりは良くないことだと知っている人は多いのですが、TCHが体に良くないことはあまり知られていません。

 

TCHを続けているとどういう症状が出てくるかというと、顎関節症になりやすいということがあります。実験的に強く噛みめさせた場合、筋肉に痛みが発生しますが、この痛みに耐えながらも継続できるのはせいぜい2分程度です。痛みを自覚すると自然と顎を休めるようになります。一方TCHでは、無意識に弱い力で噛んでいるため、長時間噛んでいられます。弱い力とはいえ、筋肉は慢性的に疲労している状態となります。しかし、本人はそれに気付けないため、筋肉が疲れ切って、顎関節症や肩こりや頭痛というかたちであらわれていきます。さらに、歯周病や、補綴物(歯のかぶせ等)の破損、インプラント上部構造(インプラント部のかぶせ)のネジの緩みなどにも影響を及ぼします。

 

さて、このコラムを読んで、TCHかもしれないと思った方はどうすればいいかですが、まず、かかりつけ歯科医院に行って、自分がTCHか診断してもらってください。その上で、正常な上の歯と下の歯の位置、そして舌の位置を教えてもらいましょう。そして、あなたに合った日常の生活の中でできるTCHを改善する方法を教えてもらってください。