喫煙歴12年。1日15分の喫煙。30代女性。歯肉が黒く変色してきたことを訴え、歯科医院に来院。口唇も黒く、乾燥してひび割れしている。この原因が喫煙であることを指摘すると、その女性はものすごく驚いた顔をされました。

口臭が主訴の30代後半男性。喫煙による口渇が認められました。口臭の原因が喫煙であることを指摘すると、この患者さんも驚かれました。

喫煙が、ガンや肺炎に影響があることは多く知られていますが、口臭や美容、そしてむし歯や歯周病に関係があるということはあまり知られていないようです。さらに、家族の健康や美容にまで影響することはあまり知られていないようです。

肺の中に入る煙を主流煙、火のついた先端から上る煙を副流煙と言います。喫煙している人は主流煙、同じ部屋にいる人は副流煙を吸っていることになります。実は、たばこを吸っている人よりも、同じ部屋にいるたばこを吸っていない人への方が健康的な問題が大きいのです。例えば、副流煙は主流煙と比べ、一酸化炭素は約5倍、ニコチンは約3倍、ベンゾビレン(発ガン物質)は約4倍影響があるというデータがあります。夫が1日20本以上吸う妻の肺がん死亡率は、1.9倍になります。また、子供の歯肉にも影響があります。同居者が喫煙していると、子供の上の前歯部分の歯肉が黒変してきます。喫煙者だけではなく、同居者にも大きな影響を与えています。

家族に気を使って、換気扇の下で喫煙されている方もいると聞きますが、親がまったくタバコを吸わない場合を1としたら、子供の体に入るニコチンは、3.2倍、同室だと15倍になります。また、ベランダで吸ったとしても、2倍のニコチンが子供の体に入っています。換気扇の下で吸っても、ベランダで吸っても、髪の毛や洋服に付着して家族に影響がでるのです。

また、喫煙者の口の中は“歯周病の症状が自分でわかりにくい”という特徴があります。「歯ぐきが腫れた」「歯を磨くと出血する」ということをきっかけに歯科医院に来られる方も多いのですが、喫煙者は口の中の毛細血管の血流不足を起こしていて、よほど歯周病が進行しないと歯肉の出血や腫れにつながらないのです。自覚症状がでるころにはかなりの重症になっているということも珍しくありません。

このように、百害あって一利なしの喫煙ですが、WHOによれば、喫煙者の7割が“ニコチン中毒依存症”という病気だということです。「たばこをやめられない人は根性が足りない」などというのは、「高血圧を気合で治せ」というむちゃなことを言っているのと同じことなのです。歯科医院には、たばこを我慢するためにのど飴を口に長時間入れていて、多数歯にわたりむし歯になる方もいらっしゃいます。“ニコチン依存症”という病気であることを、喫煙者も周囲の方も理解して、禁煙外来などの専門医に相談されることをおすすめします。

 

 

米国では30年以上も前から歯科医院での禁煙指導は常識になっています。なぜなら、喫煙は、歯周病や口腔ガン、歯肉着色、口臭、むし歯等のリスクであることがわかっているからです。