『子どもの仕上げ磨きはいつ頃まですればいいのでしょうか?』保護者の方からこのような質問を受けることがあります。『小学校の低学年までは、保護者の方が仕上げ磨きしてあげましょうね』とお答えします。でもこの質問は非常に答えにくい質問です。

私の大先輩の歯科医師は、毎年モンゴルに行き、現地の方のお口の中の状態を調べています。その先生によると、遊牧民の方たちは、歯磨きはほとんどしないにもかかわらず、むし歯にも歯周病にもならないらしいのです。歯並びにもほとんど問題がないらしいのです。DNAがそうなのかというとそうでもなく、首都ウランバートルの子供たちはむし歯が洪水の状態とのことです。都市部に住む方たちは、人工甘味料や人工の飲料水がたくさんある中で生活されています。つまり、都市化がすすみ、人工のものが氾濫する中で生活をすると、むし歯も歯周病も増え、自然の中で生活していると、むし歯も歯周病もないのです。遊牧民の方は、羊をナイフも使わず丸ごと食べます。おそらく、軟らか食に慣れた私たちには到底無理な顎の動きを使って、肉を引きちぎりながら食事をします。コミュニケーションをとるために、大きな声で歌ったり、声を掛け合ったりします。日常の生活の中で、表情筋を存分に使い、唾液が充分に出る生活をしているのです。歯並びが良くて、唾液が存分に出て、そして食べるもの、飲むものも糖分の少ないものを口にしているなら、歯磨き、もちろん仕上げ磨きをしなくても問題がないのです。いつも軟らかく糖分の多いものを含んでいるものを食べ、しかも歯並びも悪いと当然、歯磨き、仕上げ磨きをしっかりしないと、むし歯や歯周病になってしまうのです。そういうことを考えると、先述の『子どもの仕上げ磨きはいつ頃まですればいいのでしょうか?』という質問には個人個人で違うので答えにくいのです。

私は平成7年に生まれ育った舞鶴に戻ってきて歯科医院を開業しました。舞鶴に戻ってくる前は大阪や京都市内の開業歯科医院の元で働いていました。その時、大阪や京都市内の子供たちのむし歯は少数でした。少数ですが子供たちの治療には唾液がいっぱい出て苦労したものです。(唾液が多いと治療が難しい)。舞鶴に戻ってきた時、まず、子供たちの口の中にむし歯が多いことに驚きました。舞鶴は3世代で暮らしている家族が多く、おじいちゃんおばあちゃん世代には、むし歯はある程度あってもしかたがない。それよりも孫の喜ぶ顔がみたくてついつい甘いお菓子を与えてしまうというかたも多くいらっしゃいました。だから、子どもたちのお口の中はむし歯だらけ。友達にもむし歯があるのだからうちの子にもむし歯があってもしかたがない。保護者同士のそんなへんな安心感も感じました。その頃に比べ、今は子供たちのむし歯はずいぶん減りました。予防歯科という概念が浸透してきたということもあるでしょう。とても良い傾向です。一方、子供たちの唾液量は明らかに減っています。むし歯治療になっても治療しやすくなりました。これはあまり良いことではありません。唾液は健康の源だからです。

地域や時代によってもお口のリスクが変わります。仕上げ磨きをいつまでするかですが、私の個人的な意見ですが、舞鶴市のこの現状においては、子供との関係がゆるすなら、小学校卒業まではしてあげた方がよいのではないかと考えます。