これまで特に子供のむし歯予防に有効と考えられてきたフッ化物応用。しかし、近年、成人から高齢者を含めたすべてのライフステージにおいて、その応用を推進する動きがみられるようになっています。

2000年からスタートした『健康日本21』の目標は健康寿命の伸展でした。

平成19年のデータによると、平均寿命(男性79.19歳、女性85.99歳)に対し健康寿命(男性70.94歳、女性74.11歳)とその差は8年以上あります。健康寿命とは日常的に介護を必要としないで自立した生活ができる生存期間です。高齢になっても活発に咀嚼できることが全身の健康に良い影響をもたらし健康寿命も伸ばせるという様々な研究の成果として現れてきました。また、2012年には『歯科口腔保健の推進に関する法律』(略称「歯科口腔健康保健法」)の基本的事項が定められました。その『う蝕予防方法の普及計画』の中に、乳幼児期、学齢期、成人期、高齢者期の4つのライフステージにおいて「フッ化物の応用」が示されました。このことは、大人や高齢者にもフッ化物の応用がむし歯予防に有効であると国が示したということです。

フッ化物については、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が出している見解によると、「すべての人々がまず至適にフッ化物濃度を調整した水を飲用する。さらに、1日2回、フッ化物配合の歯磨剤を用いて歯磨きをすることを推奨する」とあります。アメリカの場合、水道水フロリデーションといって、水道水自体にフッ化物が濃度調整されて入っていますので、水道水フロリデーションと1日2回のフッ化物入り歯磨きの使用が基本となっています。さらに、「う蝕リスクの高い人には、この方法と別のフッ化物応用の併用が勧められる」とあります。ですから、水道水フロリデーションは必須、それにリスクが普通あるいは高ければ歯科医院でのフッ化物塗布とフッ化物洗口を重ねるといった具合です。

日本では水道水フロリデーションが行われておりませんので、フッ化物歯磨剤を使った歯磨き、フッ化物洗口、歯科医院でのフッ化物塗布が基本となります。日本の歯磨剤の場合、フッ化物濃度は1000ppmまでと決められていますが、海外では特に「根面う蝕の予防にはフッ化物濃度が高いものが非常に有効」というエビデンスが多く出ています。高齢者のむし歯は子供たちに多いエナメル質のむし歯ではなく、歯の根の部分セメント質のむし歯(根面う蝕)です。ISOの基準も1500ppmですので、それが世界基準と考えた方が良いでしょう。また、日本人は歯磨剤を少量しか使いません。これは質素倹約を美徳とするすばらしい習慣からではありますが、フッ化物の効果にとってはマイナスです。さらに、使い終わった後のうがいの量と回数が非常に多い。その気持ちはよくわかりますが、あまりよくうがいをしてしまうと、フッ化物の効果がうすれてしまいます。サッとうがいする程度にした方がむし歯予防には有効です。ということで、フッ化物濃度が1000ppm近い歯磨剤を少し多目に付け、うがいはサッとする程度に抑える。これにプラスして歯科医院でのフッ化物の歯面塗布が高齢者のむし歯予防には有効です。