食欲の秋。海の幸、山の幸が美味しい季節となりました。今回は『味覚』についてです。甘味、酸味、塩味、苦味を『味覚4味』といいます。料理の世界では、それにうま味を加えて『基本5味』と呼ぶこともあるようです。

人は、味覚系を用いて食物の栄養性(糖やアミノ酸濃度)、毒性、腐敗性および塩濃度を評価しています。すっぱいものは腐っている。体内の塩分が不足している時は、味の濃いものを食べたくなる。というのも味覚で判断しています。

『味覚』は、舌表面の舌乳頭にある味蕾(みらい)というところで感知します。以前は、生物学の授業で『味覚地図』という舌のどこで味を感知しているかという図を学んでいましたが、現在の考え方では、いわゆる地図のようにきちんと区分けされた領域があるのではなく、舌のすべての領域で『基本5味』を感じていると言われています。

最近『味覚障害』が増加しています。『味覚障害』は「味がわからない」だけではありません。歯科の臨床では「口の中に食べ物は入っていないのに、つねに味がする」「食べ物の味を強く感じる」という訴えがあります。

食べ物の味の感じるルートをお伝えします。食べ物が口の中に取り込まれると、食べ物に含まれる味を呈示する物質が、唾液中に溶け出します。そして唾液によって口の中にある味覚センサー(味蕾)に運ばれ、スイッチが入り、味の情報が味覚神経に伝わります。脳の中を伝わる途中で、味覚情報に、口の感覚(食べ物の温度、舌触り、噛みごこちなど)や嗅覚(カレーの臭いなど)、視覚(料理の色彩 配置など)、さらには気分・感情・記憶などさまざまな情報が加わります。そして最終的には大脳皮質でこれらの情報が統合されて「食べ物の味」が完成します。『味覚障害』はこの伝達の不具合によって生じます。つまり味蕾、味覚神経、脳、臭覚の障害などが起こると『味覚障害』となります。そのため『味覚障害』の原因は多岐にわたり、特定するのはとても難しいのです。

従来から『味覚障害』の原因として、糖尿病などの全身疾患、薬の副作用などが知らています。口の中では、味蕾の障害により『味覚障害』が発生します。具体的には、①唾液量の低下(ドライマウス)②舌炎、口内炎、口腔粘膜疾患、舌咬傷は、味蕾を直接傷つける可能性があります。③入れ歯の不適合、むし歯、歯周病はうまく噛めないため、栄養不足になり、味蕾が作られなくなります。

むし歯、歯周病、入れ歯の不具合が直接『味覚障害』の原因になることもあるのに加え、特に高齢者は全身疾患により、多くの薬を服用している場合が多く、さらに加齢による唾液量の低下があると、『味覚障害』が発生しやすくなってしまいます。そういった理由が重なり、最近特に高齢者における『味覚障害』の頻度が増えています。ある調査によれば、自立した日常生活を送っている健康高齢者の実に4割に味覚検査値異常が認められ、味覚検査値異常者全員に唾液分泌量の低下が認められています。